KIMの電気リポート1

地絡について   [REPORT1−5]  対称分インピーダンスの勘どころ

(1)このリポートのテーマ
(2)送電線路の対地静電容量
(3)送電線路のインダクタンス
(4)変圧器のリアクタンス
(5)発電機のリアクタンス
(6)1線地絡時の零相電圧と変圧器中性点電圧は等しいか

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(1)このリポートのテーマ

対称座標法を使用すると、送配電線路の故障計算が理論的にまた画一的に実行できる。この計算を実際に 実行する上でポイントになるのは、故障点からながめた各対称分インピーダンスの計算である。その求め方については このHPでもH.T氏が[対称分インピーダンスについて]で詳しく解説されている。

各対称分インピーダンスの概数については、線路定数とか同期機のインピーダンスの形で個々に解説されているが、対称座標法の 解説の中では通常省略されている。このリポートでは、あちこちに分散して解説されている概数値についてまとめてみた。また 対称座標法で何となく疑問に感じていることについても、最後に付け加えている。読者諸氏のご意見をお聞きしたい。

なおこのリポートの目的から、数式については結果だけを記載して、その導入過程は必要のない限り省略した。



(2)送電線路の対地静電容量
  1. 送電線に関する静電容量には、対地静電容量、線間静電容量、作用静電容量がある。この中では対地静電容量が 零相回路で関係してくる。

  2. 三相架空送電線(1回線)の1線当たりの対地静電容量は、捻架が完全として次式で表される。

                 C = 0.02413 [μF/km]              Pe = [log{2√(hh´)/d´}]²


    log(8h³/rd²)-3Pelog(2h´/r´)

                r :導体半径
                d :導体間幾何学的平均距離
                h :導体の地面からの幾何学的平均距離
                r´:架空地線半径
                d´:架空地線と導体の幾何学的平均距離
                h´:架空地線の地面からの高さ

  3. 三相架空送電線の1線当たりの対地静電容量の概数は、架空地線があり捻架が完全として、概ね次の通りである。

                1回線使用:0.005[μF/km]
                2回線使用:0.004[μF/km]

    なお、この値は送電電圧にはほとんど依存しないと考えて差し支えない。なぜなら、電圧と導体半径・導体間距離・地表からの高さはほぼ 比例するとして大きな誤りはないし、それらのlogをとるので誤差はごく小さくなるからである。


(3)送電線路のインダクタンス
  1. 正相回路でのインダクタンスは、平常の運転状態において線路の電圧降下に関係する、作用インダクタンスそのものである。作用 インダクタンスは捻架が完全であるとして、次式で表される。

                L = 0.05 + 0.4606 log(d/r)  [mH/km]

    この値はほぼ、1.3[mH/km]である。

  2. 一方、作用インダクタンスは、次式でも表すことができる。

                L = Le - Lm

                Le :1線の大地帰路のインダクタンス
                Lm :相互インダクタンス

    この大地帰路のインダクタンスは、実測値の総平均として、2.3[mH/km]を使用する。したがって、相互インダクタンスは1.0[mH/km] となる。

  3. 零相回路におけるインダクタンスは、三相送電線の各線に同じ大きさの単相交流を流した場合のインダクタンスに等しいので、次式で表すことができる。

                Lo = Le + 2Lm

    この値は上記数字を当てはめて、4.3[mH/km]となる。これは正相インダクタンスのほぼ3.5倍となる。

  4. 逆相インダクタンスは正相インダクタンスと等しい。以上をまとめると次のようになる。

                零相インダクタンス:L=4.3[mH/km]
                正相インダクタンス:L=1.3[mH/km]
                逆相インダクタンス:L=1.3[mH/km]

    対地静電容量と同じ理由で、送電線のインダクタンスは電圧によらず、ほぼ一定と考えられる。

  5. しかし、故障計算で使用する%リアクタンス降下は、もちろん電圧に依存する。10[MVA]を基準にした線路のリアクタンスは、50[Hz]の ときは次のように計算できる。

                500[kV]:0.0016[%/km]
                275[kV]:0.0054[%/km]
                220[kV]:0.0084[%/km]
                154[kV]:0.017[%/km]
                110[kV]:0.034[%/km]
                77[kV]:0.069[%/km]
                66[kV]:0.094[%/km]



(4)変圧器のリアクタンス

  1. 変圧器の正相リアクタンスおよび逆相リアクタンスについては、公称電圧に対して次表の値がよく記載されているので転載しておく。

                3〜6[kV]:3[%]
                10〜20[kV]:5[%]
                30〜70[kV]:7[%]
                100〜140[kV]:10[%]
                200[kV]:13[%]

  2. 電圧が高いほど零相リアクタンスは大きくなっているが、これは電圧が大きいほど絶縁を高める必要から、漏れリアクタンスが増えるためである。

  3. 変圧器の零相リアクタンスは、変圧器の結線が△−Yでその中性点が接地されているとき、漏れリアクタンス即ち正相リアクタンスと等しくなる。しかし、変圧器に △結線がない場合は、接地された側に流れる電流は励磁電流であり、励磁インピーダンスは漏れインピーダンスに比べてはなはだ大きく、実用上は無限大とみなせる。 また△−Y結線でもYの中性点が接地されていないときは零相電流が流れることができないので、零相インピーダンスは無限大となる。



(5)発電機のリアクタンス
  1. 発電機に負荷が接続されて電流が流れるときには、この電流によって生じた電機子起磁力は、回転子と同方向に同期速度で回る回転磁界を作り、その大部分は 直接界磁巻線に作用して電機子反作用を生じさせる。負荷電流は通常誘導性なので、この電機子反作用は通常減磁作用をなす。

  2. 電機子巻線の電流による起磁力のうち、直接界磁に影響を及ぼさない一部は電機子巻線とのみ鎖交する磁束すなわち電機子漏洩磁束を作り、これは発電機の漏洩 リアクタンスを生ずる。

  3. 電機子巻線の電流による作用を、電機子反作用と漏洩リアクタンスに分けずに、端子から眺めて一つの等価リアクタンスとして表す場合、これを同期リアクタンス と言い、抵抗分を含めて同期インピーダンスXと言う。通常抵抗分は無視する。定格電流によるインピーダンス降下の定格相電圧に対する割合を%で表したものを、 %同期インピーダンスと呼び、その逆数は短絡比である。

  4. 定常時の正相リアクタンスXは,平衡三相電流すなわち正相電流に対するもので、同期リアクタンスと全く同一のものである。

  5. 過渡電流に対する正相リアクタンスX´は過渡リアクタンスとも言い、電機子反作用を考えることができないので、近似的には電機子 漏洩リアクタンスと界磁の漏洩リアクタンスの和に等しい。

  6. 逆相リアクタンスXは、逆回転の平衡三相電流すなわち逆相電流に対するものである。逆相電流の作る回転磁界は回転子に対して同期速度の 2倍の速度となり、2倍周波の交番起電力を回転子回路に誘起するため、回転子の回路状態の影響を著しく受ける。通常は過渡リアクタンスと等しいとして 取り扱う。また逆相リアクタンスの過渡値と定常値は等しいものと考えてよい。

  7. 零相リアクタンスXは、零相電流に対するものである。零相電流は電機子反作用を呈しないため、零相リアクタンスは漏洩リアクタンスに近い値になるが、 一般にはこれより小さな値となる。

  8. 各リアクタンスの概数[%]は次の通りである。

    発電機の種類´
    水車発電機(制動巻線あり)90252510
    水車発電機(制動巻線なし)90555515
    タービン発電機110101010
    同期調相機160303010
    同期電動機90303010
    故障計算で使用する値100303010


(6)1線地絡時の零相電圧と変圧器中性点電圧は等しいか
  1. 送電線に1線地絡故障が発生すると、地絡点では零相電圧Vが発生する。また地絡電流がすべて変圧器中性点に還ると考えると、 変圧器中性点の電圧Vは次のようになる。

                 V0 = - Z0 Ea              Vn = - 3Zn Ea


    Z0 + Z1 + Z2 Z0 + Z1 + Z2

  2. 高抵抗接地の場合はZおよびZはZに比べて無視できる。また零相回路でZは3Z で近似できる。したがって、VとVは等しいとして概ね誤りはない。

  3. 問題は直接接地の場合である。変圧器の中性点電圧は零であるから、直接接地系に限っては「零相電圧とは中性点の対地電圧である。」という図式は 正しくない。

  4. 直接接地系における1線地絡については、KIMの電気リポート1−6「直接接地系における零相電圧の理論」を見ていただきたい。




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