地絡について [REPORT1−5] 対称分インピーダンスの勘どころ
(1)このリポートのテーマ |
(2)送電線路の対地静電容量 |
(3)送電線路のインダクタンス |
(4)変圧器のリアクタンス |
(5)発電機のリアクタンス |
(6)1線地絡時の零相電圧と変圧器中性点電圧は等しいか |
- 送電線に関する静電容量には、対地静電容量、線間静電容量、作用静電容量がある。この中では対地静電容量が 零相回路で関係してくる。
- 三相架空送電線(1回線)の1線当たりの対地静電容量は、捻架が完全として次式で表される。
C = 0.02413 [μF/km] Pe = [log{2√(hh´)/d´}]²
log(8h³/rd²)-3Pe log(2h´/r´)
r :導体半径 d :導体間幾何学的平均距離 h :導体の地面からの幾何学的平均距離 r´ :架空地線半径 d´ :架空地線と導体の幾何学的平均距離 h´ :架空地線の地面からの高さ - 三相架空送電線の1線当たりの対地静電容量の概数は、架空地線があり捻架が完全として、概ね次の通りである。
1回線使用 :0.005[μF/km] 2回線使用 :0.004[μF/km]
なお、この値は送電電圧にはほとんど依存しないと考えて差し支えない。なぜなら、電圧と導体半径・導体間距離・地表からの高さはほぼ 比例するとして大きな誤りはないし、それらのlogをとるので誤差はごく小さくなるからである。
- 正相回路でのインダクタンスは、平常の運転状態において線路の電圧降下に関係する、作用インダクタンスそのものである。作用 インダクタンスは捻架が完全であるとして、次式で表される。
L = 0.05 + 0.4606 log(d/r) [mH/km]
この値はほぼ、1.3[mH/km]である。- 一方、作用インダクタンスは、次式でも表すことができる。
L = Le - Lm
Le :1線の大地帰路のインダクタンス Lm :相互インダクタンス
この大地帰路のインダクタンスは、実測値の総平均として、2.3[mH/km]を使用する。したがって、相互インダクタンスは1.0[mH/km] となる。- 零相回路におけるインダクタンスは、三相送電線の各線に同じ大きさの単相交流を流した場合のインダクタンスに等しいので、次式で表すことができる。
Lo = Le + 2Lm
この値は上記数字を当てはめて、4.3[mH/km]となる。これは正相インダクタンスのほぼ3.5倍となる。- 逆相インダクタンスは正相インダクタンスと等しい。以上をまとめると次のようになる。
零相インダクタンス :L0=4.3[mH/km] 正相インダクタンス :L1=1.3[mH/km] 逆相インダクタンス :L2=1.3[mH/km]
対地静電容量と同じ理由で、送電線のインダクタンスは電圧によらず、ほぼ一定と考えられる。- しかし、故障計算で使用する%リアクタンス降下は、もちろん電圧に依存する。10[MVA]を基準にした線路のリアクタンスは、50[Hz]の ときは次のように計算できる。
500[kV] :0.0016[%/km] 275[kV] :0.0054[%/km] 220[kV] :0.0084[%/km] 154[kV] :0.017[%/km] 110[kV] :0.034[%/km] 77[kV] :0.069[%/km] 66[kV] :0.094[%/km]
- 変圧器の正相リアクタンスおよび逆相リアクタンスについては、公称電圧に対して次表の値がよく記載されているので転載しておく。
3〜6[kV] :3[%] 10〜20[kV] :5[%] 30〜70[kV] :7[%] 100〜140[kV] :10[%] 200[kV] :13[%] - 電圧が高いほど零相リアクタンスは大きくなっているが、これは電圧が大きいほど絶縁を高める必要から、漏れリアクタンスが増えるためである。
- 変圧器の零相リアクタンスは、変圧器の結線が△−Yでその中性点が接地されているとき、漏れリアクタンス即ち正相リアクタンスと等しくなる。しかし、変圧器に △結線がない場合は、接地された側に流れる電流は励磁電流であり、励磁インピーダンスは漏れインピーダンスに比べてはなはだ大きく、実用上は無限大とみなせる。 また△−Y結線でもYの中性点が接地されていないときは零相電流が流れることができないので、零相インピーダンスは無限大となる。
(6)1線地絡時の零相電圧と変圧器中性点電圧は等しいか
- 発電機に負荷が接続されて電流が流れるときには、この電流によって生じた電機子起磁力は、回転子と同方向に同期速度で回る回転磁界を作り、その大部分は 直接界磁巻線に作用して電機子反作用を生じさせる。負荷電流は通常誘導性なので、この電機子反作用は通常減磁作用をなす。
- 電機子巻線の電流による起磁力のうち、直接界磁に影響を及ぼさない一部は電機子巻線とのみ鎖交する磁束すなわち電機子漏洩磁束を作り、これは発電機の漏洩 リアクタンスを生ずる。
- 電機子巻線の電流による作用を、電機子反作用と漏洩リアクタンスに分けずに、端子から眺めて一つの等価リアクタンスとして表す場合、これを同期リアクタンス と言い、抵抗分を含めて同期インピーダンスXSと言う。通常抵抗分は無視する。定格電流によるインピーダンス降下の定格相電圧に対する割合を%で表したものを、 %同期インピーダンスと呼び、その逆数は短絡比である。
- 定常時の正相リアクタンスX1は,平衡三相電流すなわち正相電流に対するもので、同期リアクタンスと全く同一のものである。
- 過渡電流に対する正相リアクタンスX1´は過渡リアクタンスとも言い、電機子反作用を考えることができないので、近似的には電機子 漏洩リアクタンスと界磁の漏洩リアクタンスの和に等しい。
- 逆相リアクタンスX2は、逆回転の平衡三相電流すなわち逆相電流に対するものである。逆相電流の作る回転磁界は回転子に対して同期速度の 2倍の速度となり、2倍周波の交番起電力を回転子回路に誘起するため、回転子の回路状態の影響を著しく受ける。通常は過渡リアクタンスと等しいとして 取り扱う。また逆相リアクタンスの過渡値と定常値は等しいものと考えてよい。
- 零相リアクタンスX0は、零相電流に対するものである。零相電流は電機子反作用を呈しないため、零相リアクタンスは漏洩リアクタンスに近い値になるが、 一般にはこれより小さな値となる。
- 各リアクタンスの概数[%]は次の通りである。
発電機の種類 X1 X1´ X2 X0 水車発電機(制動巻線あり) 90 25 25 10 水車発電機(制動巻線なし) 90 55 55 15 タービン発電機 110 10 10 10 同期調相機 160 30 30 10 同期電動機 90 30 30 10 故障計算で使用する値 100 30 30 10
- 送電線に1線地絡故障が発生すると、地絡点では零相電圧V0が発生する。また地絡電流がすべて変圧器中性点に還ると考えると、 変圧器中性点の電圧Vnは次のようになる。
V0 = - Z0 Ea Vn = - 3Zn Ea
Z0 + Z1 + Z2 Z0 + Z1 + Z2 - 高抵抗接地の場合はZ1およびZ2はZ0に比べて無視できる。また零相回路でZ0は3Zn で近似できる。したがって、V0とVnは等しいとして概ね誤りはない。
- 問題は直接接地の場合である。変圧器の中性点電圧は零であるから、直接接地系に限っては「零相電圧とは中性点の対地電圧である。」という図式は 正しくない。
- 直接接地系における1線地絡については、KIMの電気リポート1−6「直接接地系における零相電圧の理論」を見ていただきたい。