地絡について [REPORT1−6] 直接接地系における零相電圧の理論
(1)このリポートのテーマ |
(2)直接接地系の具体例 |
(3)「零相電圧が相電圧の1/3」の誤解の原因 |
- 中性点を直接接地した275kV、320kmの送電線で、発電所側(A)から80kmの地点で故障が発生した場合の各リアクタンス値の概数は次のようになる。 ここで負荷側(B)は同期電動機としている。これらの値は、前川幸一郎著「対称座標法講義」の演習問題から引用したものである。
発電機の正相過渡リアクタンス Xg1=65Ω 同期電動機の正相過渡リアクタンス Xm1=140Ω 変圧器のリアクタンス XtA=XtB=22Ω 線路の正相リアクタンス XA=28Ω XB=84Ω 線路の零相リアクタンス X0A=96Ω X0B=290Ω
系統図と零相回路、正相および逆相回路を示しておく。
- これらの値から各対称分リアクタンスを計算すると、零相リアクタンスは85.6Ω、正相リアクタンスおよび逆相リアクタンスは78.4Ωとなる。 すなわち、この例の場合においては各対称分リアクタンスは結果的に同じような値となる。送電線の1線地絡時の零相電圧は次式で表される。
V0 = - Z0 Ea
Z0 + Z1 + Z2
そのため、この例の場合は零相電圧は結果的に相電圧のほぼ1/3となる。- 1線地絡時の健全相の電圧は次式で表される。
Vb = ( a² - 1 ) Z0 + ( a² - a ) Z2 Ea Vc = ( a - 1 ) Z0 + ( a - a² ) Z2 Ea
Z0 + Z1 + Z2 Z0 + Z1 + Z2 - ここで、Z0=Z1=Z2が成立すると、Vb=a²EaおよびVc=aEa となり、「このリポートのテーマ」で示した「零相電圧は相電圧の1/3」が導かれる。その条件は次の3点である。
@線路インピーダンスが無視できる。これが無視できないと、零相回路でのインピーダンスが正相回路でのインピーダンスの3.5倍となり、ややこしいことになる。
A発電機や負荷のインピーダンスが無視できる。
B変圧器のインピーダンスも無視してしまうと無限大の故障電流となってしまうので、変圧器インピーダンスは無視しない。
しつこいようであるが大事なことなので、もう一度繰り返しておく。これらの条件下で、直接接地系の1線地絡時の零相電圧は相電圧の1/3となる、という論議が正しい。 しかし上記の例にもあるように、一番小さい変圧器のインピーダンスだけを残す、という非現実的な仮定であることも事実である。
- 送電系統における過渡状態での計算では、Z1、Z2はリアクタンス分のみと考えられ、実用上Z1とZ2は近似的に 等しい、としてよい。また直接接地系では中性点接地抵抗は無視できるので、 Z0もリアクタンス分だけと考えて差し支えない。具体的には線路のインダクタンスと変圧器のリアクタンスである。架空送電線では対地静電容量による インピーダンスは大きい値となり、Π型回路を仮定して変圧器と並列になっているとしても、十分無視できる。
- 一般に、Z0=R+X0とおき、0≦(R/X1)≦1かつ0≦(X0/X1)≦3の範囲では 健全相の対地電圧は相電圧の1.3倍を越えることはない。このような系統を「有効接地系」という。
- Rを無視し、X0/X1=3のときの計算は次のようになる。
Vb = ( - 0.9 - j 0.866 ) Ea
Vc = ( - 0.9 + j 0.866 ) Ea
Vo = - 0.6 Ea
これをベクトル図で表しておく。
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この例では零相電圧はEaのほぼ2/3となっている。このことからも「直接接地系では1線地絡時の零相電圧が相電圧 の1/3になる」という図式の誤りが理解できる。
皆さんのご感想、ご意見をお待ちしています。
- 高抵抗接地系統や非接地系統では、零相インピーダンスに比べて正相インピーダンスや逆相インピーダンスは十分無視できる。その暗黙の(まさに知らず知らずの) 仮定を直接接地系にも当てはめているのである。無視できないものを、思い込みによって無視しているのである。
- もう一つが、「このリポートのテーマ」で示したベクトル図である。全く非の打ちどころのないよく見慣れた図である。しかしこれも同じ仮定の下でしか正しくないのである。 直接接地系ではこうはならないのである。
- 「直接接地系では1線地絡時の零相電圧が相電圧の1/3になる」と言うときは、以上の認識を持った上で言う必要がある。正確に言うなら 「直接接地系では1線地絡時の零相電圧が相電圧のほぼ1/3になる。」というべきである。
- 結論を言うと、直接接地系では各対称分インピーダンスを丁寧に計算して、零相電圧を求めなければならない、ということになる。