地絡について [REPORT1−4] 大容量バンクにおける地絡保護協調の諸問題
−−−はじめに−−− |
(1)配変における地絡保護方式 |
(2)大容量バンクにおける地絡保護協調の現実 |
(3)バンクの対地静電容量と波及事故の関係 |
(4)地絡保護協調不備で波及事故になった事故例 |
(5)電力会社側の対策 |
(6)需要家側の対策 |
(7)需要家に告示される一線地絡電流値について |
−−−まとめにかえて−−− |
(付録)バンクの対地静電容量の表し方換算表 |
A配変67Gの時限整定
- 基準電圧の与え方がまずポイントとなる。需要家で使用される場合は、零相電圧が基準電圧として与えられ、 これと零相電流が位相比較されて方向判別する。
- ところが配変においては、64Φ(接地保護母線継電器)で地絡相を検出して、零相電圧の位相に見合った 制御電圧(110[V])を67Gの電圧要素に印可し、67Gの動作感度の安定、向上を図っている。
- どの程度の零相電圧が発生した時に、67Gに制御電圧を印可するかを64Φで感度調整するが、この 感度調整を行うのが人工接地試験である。人工接地試験については、私の「KIMの電気リポート3」に 詳しいので参照してほしい。
- 64Φの感度は、地絡抵抗6000[Ω]の地絡発生時の零相電圧を検出するように調整される。つまり 地絡抵抗6000[Ω]以下の地絡事故が発生してはじめて、零相電圧に見合った制御電圧が67Gに印可され、 円盤が動作しはじめる。
- 地絡抵抗6000[Ω]の時の地絡電流は、通常の大容量バンクの場合ほぼ一定で、O.64[A]である。
- このリポートの対象は大容量バンクなので、フィーダー数は10程度である。 各フィーダーの対地静電容量が等しいとした場合、当該フィーダーの対地静電容量を通して地絡点に還る電流は、 地絡相分は当該67Gを通過しないし、健全相分は往復で通過するため相殺される。つまり地絡時に地絡を起こした フィーダーの67Gを通過する地絡電流の大きさは、9/10程度となる。すなわち約0.57[A]である。
- 結論−−−67Gに電流感度整定はないが、実質的に上記O.57[A]が整定値となっている。
B配変67Gの電圧整定
- 67Gの瞬時動作で遮断器が動作しないよう、上記シーケンス図の64T1と67Gのアンドがとれないと フィーダートリップはしない。
- 継電器64Φも誘導円盤型なので、動作時間は最速でも0.1[秒]である。67Gは電流値によって 異なるが、0〜1[秒]と考えられる。
- したがって時限整定は0.6〜1.6[秒]と考えられるが、静止型があったり、特殊な制御で瞬時の 場合もありうるので、このリポートでは0.5[秒]として議論を進める。なお、東京電力管内では67Gが 静止型である関係上,時限整定は0.9[秒]となっている。
- 結論−−−67Gに時限整定はないが、実質的に67T1の0.5[秒]が整定値となっている。
配変67Gの整定についてまとめると、次のようになる。上記で述べたように、67G単独で需要家の67Rと 地絡保護協調をとっているのでなく、配変においては地絡保護はシステムとして機能していることの理解が重要 である。
- 67Gは上記にも述べたように、電圧要素が印加されて動作を始める。繰り返しになるが、地絡抵抗 6000Ωの地絡時の零相電圧を検出するように、人工接地試験で64Φの感度調整が行われる。
- 後述するが、この電圧整定はバンクの対地静電容量によって変わってくる。換言すると、バンクの対地静電 容量がわかれば64Φの電圧整定も決まってくる。
- 結論−−−67Gに電圧整定はないが、実質的に64Φの電圧整定が67Gの電圧整定となっている。
- 電流整定 実質0.57[A]
- 時限整定 実質0.5[秒]
- 電圧整定 人工接地試験で感度調整
A 電流協調
- ここでは需要家の地絡保護が、静止型地絡方向継電器(以下、67Rと記す。)である場合を考える。 整定は次のようになっているものとする。
- 零相電流の整定 0.2[A]
- 零相電圧の整定 5[%]
- 動作時間の整定 0.2[秒]
- 当該バンクの対地静電容量は、1線地絡電流で表す。例えば、Igo=30[A]の場合は、6000Ωの地絡抵抗で 地絡が起こった時に発生する零相電圧は、2.12[%]となり、私が見学したバンクとほぼ同じ容量である。 なお、バンクの対地静電容量については、このリポートの最後に付録としてまとめた。
- このリポートにおいては、系統のインピーダンスとして、各相の対地静電容量と地絡抵抗以外は無視する。 また、各相の対地静電容量はそれぞれ等しいものとする。
- 対象バンクのフィーダー数は10とし、各フィーダーの対地静電容量は等しいものとする。
- この図を説明することで、私の考察を述べる。
- いま対地静電容量Igo=30[A]のバンクを考えると、配変では地絡抵抗6000[Ω]以下の 地絡を検出する。一方需要家では零相電圧5[%]以上を検出する。したがって、図の赤斜線内の 地絡抵抗値の地絡事故は波及事故となってしまう。図から具体的には、2500〜6000[Ω] の地絡抵抗での地絡事故は波及事故となる。
- 需要家の67Rの電圧整定がたとえ2.5[%]であっても、地絡抵抗値が5000〜6000[Ω] の場合は波及事故になってしまう。またバンクの対地静電容量が半分のIgo=15[A]であっても需要家の電圧 整定が5[%]なら、同様に地絡抵抗値が5000〜6000[Ω]の場合は波及事故になってしまう。
- このリポートの条件で波及事故を起こさないバンクの対地静電容量は、Igo=12.8[A]以下である。これ 以上では、すべて波及事故を起こす可能性がある、と言える。
- バンクを分割して、バンクの対地静電容量を減少させる。
- 配電線に補償リアクトルを設置して、バンクの対地静電容量を減少させる。
- PC接地方式の採用
- 四国電力で採用されている配電線の中性点接地方式である。高圧配電線の中性点接地方式は、 非接地方式の他にPC接地方式が実用化されている。特徴は次の2点である。
- 1線地絡電流が低減でき、B種接地工事の接地抵抗値が緩和できる。
- 高抵抗の地絡故障検出ができる。
- GVTの代わりに、次図のようなPC(ペテルゼンコイル)を配変バンクに接地変圧器を 介して接続し、配電線の対地静電容量分をキャンセルすることで、配電線地絡時の1線地絡電流を 低減する。
- PCは、57[kVA]、80[kVA]等、バンク全体の対地静電容量に応じたものを採用し、 かつ自動PC(21タップ)を採用することで、配電線切替等で変動する対地静電容量に対して常に 適正容量が投入されるようにしている。
- 東京電力では、次の資料によると67Gは静止型で電圧整定は一律20[V]であるらしい。 GVT定格が190[V]なので、10[%]強である。これだと確かに地絡保護協調はとれるが、 地絡時の人体の危険など問題はないのだろうか。
(資料)米山、川本「高圧受電設備の保護協調について、地絡編@」電気技術者1999年8月号
- 「GR動作機能」とは、電圧整定値以下の零相電圧では継電器の方向機能を無視し、普通の地絡 継電器として動作する機能のことである。
- いま次図のような地絡事故が発生した場合を考える。
- バンクの対地静電容量がIgo=15[A]とし、需要家Aも需要家Bも構内配電線がかなり長いとする。
- 地絡点は、図でG点である。需要家Aでは構内配電線の分だけZCTAを通過する零相電流は 小さくなるので、ZCTA点では図のA点となる。またZCTB点では図のB点となる。
- 零相電圧は4.3[%]なので、需要家A、Bともに「GR動作機能」がはたらく。
- 需要家Aでは継電器がはたらく。
- もらい事故が心配な需要家Bでは、ZXTBを通過する零相電流が整定値より小さいので継電器は はたらかない。もらい事故の限界は通常完全地絡時の地絡電流から計算するが、「GR動作機能」では、 Vo=5[%]の時の地絡電流を対象に計算するので、通常時の20倍の構内配電線長まで許容される ことになる。
- 図の赤の斜線内が「GR動作機能」範囲であるが、上に示した波及事故の範囲をちょうどカバー していることに注目してほしい。
1線地絡電流Igo[A] | 30A | 20A | 15A | 10A | 5A |
1相あたりのC[μF]60Hz | 6.97μF | 4.65μF | 3.48μF | 2.32μF | 1.16μF |
Rg=6000[Ω]時のVo[%] | 2.12% | 3.17% | 4.23% | 6.34% | 12.6% |
対地静電容量の[kVA]表示 | 114.3kVA | 76.2kVA | 57.2kVA | 38.1kVA | 19.1kVA |